訪問介護でAIが効くのは、記録・移動とスケジュール・請求の転記・申し送りの4つの業務です。移動中に話すだけで実施記録の下書きができ、訪問順と担当の組み直しをソフトに任せ、記録から請求への転記をなくすと、帰所後の事務が減ります。東京商工リサーチの調査では2025年の訪問介護事業者の倒産は91件と3年連続で過去最多で、人手を増やせない中で続けるには事務の時間を削るしかありません。この記事では、現場で使われているAIとツール、愛知県の補助金と相談先、個人情報の注意点、始め方の手順を解説します。
訪問介護でAIが効く業務はどこ?|記録・移動・請求・申し送りの4領域
訪問介護の事務負担は、施設と違って「事業所にいない時間」に発生します。ヘルパーは訪問先で介助をし、車や自転車で次の利用者宅へ移動し、1日の終わりに事業所へ戻って記録を清書し、サービス提供責任者がそれを請求ソフトへ転記します。この流れの中で、AIが置き換えられるのは手を動かす部分ではなく、書く・写す・組み立てるの3つです。
具体的には、①移動中に声で記録の下書きを作る音声入力AI、②利用者の住所・訪問時間・ヘルパーの条件から訪問順や担当を組むスケジュール最適化、③実施記録から請求データへの自動転記、④記録を要約して次の担当者に渡す申し送りの自動化です。どれも入力されたデータがデジタルで残っていることが前提で、紙の記録のままではAIは動けません。
厚生労働省の資料(2024年9月・社会保障審議会介護給付費分科会)では、2023年度の訪問介護職の有効求人倍率は14.14倍で、施設介護員の3.24倍と比べて人手不足が突出しています。ヘルパーの平均年齢は54.4歳、60歳以上が37.6%です。新しく人を採れない以上、今いるヘルパーの事務時間を減らして訪問件数に回すのが、AI導入の現実的な目的になります。
| 業務 | 今の負担 | AI・ツールでできること | 代表的な手段 |
|---|---|---|---|
| 実施記録 | 帰所後にまとめて清書 | 移動中に話した内容を記録の下書きに変換 | 介護ソフトの音声入力オプション、連携型の音声記録アプリ |
| 移動・スケジュール | 紙やExcelで訪問順を手組み | 住所・時間・担当条件から訪問順と担当を自動提案 | 訪問介護向け管理ソフトのルート・シフト機能 |
| 請求 | 記録を請求ソフトへ手入力 | 記録データをそのまま請求へ転記 | 記録と請求が一体の介護ソフト、RPAによる転記 |
| 申し送り | 口頭やノートで引き継ぎ | 記録を要約して次の担当へ共有 | 生成AIの要約、チャットツール連携 |
訪問介護の記録はAI音声入力で「移動中に話すだけ」にできる
記録の音声入力は、訪問介護でいちばん効果が出やすい領域です。訪問を終えて車に戻った直後にスマホへ向かって「排泄介助、下剤の服用あり、食事は半量」と話すと、AIが文字に起こし、実施記録の様式に合わせた下書きに整えます。帰所後に手書きのメモを見ながら清書する作業がなくなり、記憶が新しいうちに記録できるため内容の抜けも減ります。
ツールは使っている介護ソフトで選択肢が決まります。カイポケを使う事業所なら、話した内容から実施記録の下書きを作ってカイポケへ自動転記する「神マナ」(利用者3名までは無料・期限なし)や、月額5,000円・月40時間の「ミルモレコーダー」(オプションでカイポケへ転記)があります。
ワイズマンの「音声記録AI」は自社の記録ソフトとインカムの組み合わせが前提で、他社ソフトとは連携しません。汎用の音声認識ではアドバンスト・メディアの「AmiVoice CLx」が月1,650円の定額または0.275円/秒の従量で、入力欄に文字を入れる方式のため介護ソフトを選びません。
NottaやPLAUDのような汎用の文字起こしツールは安く試せますが、介護ソフトへの転記と様式への変換は手作業に戻ります。実際の支援現場でよくあるのは、無料の文字起こしで始めたものの、転記の手間が残って結局ヘルパーが使わなくなるケースです。「話す→下書き→転記」のどこまでを自動にするかを先に決め、転記先のソフトに対応したツールから選ぶと定着します。
- 転記先の介護ソフトに対応しているか(カイポケ、CAREKARTE、ワイズマンなど)を最初に確認する
- 料金の単位(人数・時間・秒・事業所)と無料枠の範囲を比べる
- 介護用語の辞書や話者分離の有無で、修正にかかる手間が変わる
- 音声データの保存先と削除のルールを契約前に確認する
移動・スケジュール・急なキャンセルはAIでどこまで自動化できる?
訪問介護の管理者が毎週時間を取られるのが、ヘルパーの希望・資格・利用者との相性と、訪問時間の指定・住所・移動手段を突き合わせるシフト作成です。訪問介護向けの管理ソフトには、これらの条件を入力するとシフト案と訪問順を自動で組み、急なキャンセルが出たときに影響する訪問を洗い出して代わりの担当を提案する機能を持つものがあります。CareMakerやCare-Wingのような訪問介護特化型のソフトがこの領域の例です。
ここで押さえたいのは、AIが組むのは「案」までで、確定は管理者が行う点です。利用者の体調変化や家族の都合はデータに載っていないことが多く、機械的に最短ルートを優先すると、信頼関係のある担当の固定といった現場の暗黙ルールが崩れます。最初は提案を見ながら管理者が修正し、修正が減ってきたら任せる範囲を広げる進め方が安全です。
移動が車中心の愛知・東海では、ルートの組み方が1日の訪問件数に直結します。名古屋市内でも郊外や尾張・三河の事業所では利用者宅が点在し、訪問順を10分ずらすだけで移動の重なりが解消する場面があります。ただし効果の大きさは地域と利用者の分布で変わるため、導入前に現在の1日あたり移動時間を1週間分記録し、導入後に同じ条件で比べる準備をしておきます。
- ヘルパーの希望・資格・利用者との相性をデータとして登録することが前提
- AIの提案は「案」。確定と例外処理は管理者が行う
- キャンセル時は影響する訪問の洗い出しと代替担当の提案までを任せる
- 導入前後で1日あたりの移動時間を同じ条件で記録して効果を測る
訪問介護の倒産が過去最多の今、AIで請求・申し送りの時間を削る理由
東京商工リサーチの調査では、2025年の老人福祉・介護事業の倒産は176件で2年連続の過去最多、そのうち訪問介護は91件(前年比12.3%増)で3年連続の最多更新です。人手不足を直接の原因とする倒産も29件と前年から45%増えました。背景には、2024年度の介護報酬改定で訪問介護の基本報酬が身体介護・生活援助ともに2%強引き下げられたことがあります。収入を増やしにくい以上、1件の訪問にかかる事務時間を減らして訪問件数を保つことが経営の守りになります。
請求では、実施記録と請求ソフトが分かれている事業所ほど転記の二重作業が残ります。記録と請求が一体のソフトに寄せるか、分かれているならRPA(パソコン操作を自動で繰り返す仕組み)で転記させるのが定石です。転記の手入力が減ると、月初の請求作業に加えて返戻(記載不備で保険請求が差し戻されること)の件数も減り、入金の遅れを防げます。
申し送りは、生成AIで記録を要約して次の担当者へ渡す使い方が向いています。たとえば直近1週間の実施記録を貼り付けて「食事量と排泄の変化、家族からの要望を3行で」と頼むと、担当が交代するときの引き継ぎ文ができます。利用者名や住所は入れず、イニシャルや利用者番号に置き換えてから貼り付けるのが個人情報の扱いの基本です。厚生労働省の「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」に沿って、外部サービスへ入力してよい範囲を事業所のルールとして決めておきます。
- 2025年の訪問介護事業者の倒産は91件で3年連続過去最多(東京商工リサーチ)
- 2024年度改定で訪問介護の基本報酬は2%強の引き下げ
- 記録と請求の転記をなくすと、月初の請求作業と返戻の両方が減る
- 申し送りの要約は利用者名を入れず、入力範囲のルールを先に決める
愛知で訪問介護のAI・ICT導入に使える補助金と相談先は?
愛知県の訪問介護事業所が使える中心の制度は「愛知県介護テクノロジー導入支援事業費補助金」です。令和8年度(2026年度)は、県内に所在する介護保険法の指定介護サービス事業所が対象で訪問介護事業所も含まれ、補助率は5分の4、1事業所あたりの申請上限は1,000万円です。介護記録ソフトと請求ソフトの組み合わせ、介護ソフトとインカムの組み合わせといった「パッケージ型導入支援」や、介護ソフトと一体で使う端末・Wi-Fi環境・ベンダーのサポート費用も対象に入っています。
ただし令和8年度の交付申請は2026年8月31日で受付を終えています(Jグランツでの電子申請のみ・事前協議なし)。これから検討する事業所は、来年度の公募に向けて導入したいソフトと見積を今から固めておく段取りになります。年度内に動きたい場合は、国の「デジタル化・AI導入補助金2026」(通常枠5万〜450万円・補助率2分の1)が候補で、2026年10月時点の締切は6次の10月30日17時です。対象は事務局に登録されたツールに限られるため、使いたい介護ソフトが登録されているかを先に確認します。
注意したいのは加算との関係です。2024年度改定で新設された生産性向上推進体制加算は、厚生労働省の資料で施設系サービスが対象とされており、訪問介護では算定できません。施設向けの記事で紹介されている「ICT導入が加算収入になる」話はそのまま当てはまらないため、訪問介護では補助金と削減できる事務時間で投資回収を考えます。制度全般の相談は、あいち産業振興機構が運営する「あいちデジタル技術活用相談窓口」(無料・対面かオンライン・名駅のウインクあいち14階)が入口になります。
| 制度 | 補助率・上限 | 対象の例 | 2026年度の状況 |
|---|---|---|---|
| 愛知県 介護テクノロジー導入支援事業費補助金 | 4/5・1事業所1,000万円 | 記録+請求ソフト、介護ソフト+インカム、端末・Wi-Fi・ベンダーサポート | 8月31日で交付申請受付終了。来年度に向けて準備 |
| 国 デジタル化・AI導入補助金2026 | 1/2・通常枠5万〜450万円 | 事務局に登録されたITツール・クラウド利用料 | 6次締切は10月30日17時 |
| 生産性向上推進体制加算 | 加算(収入) | 施設系サービス | 訪問介護は算定対象外 |
訪問介護事業所がAI導入を始める手順と失敗しないコツ
進め方は5段階です。①記録・移動・請求・申し送りのうち、いちばん時間を取られている業務を1つ選ぶ、②現在の流れと1日あたりの所要時間を1週間分書き出す、③使っている介護ソフトに対応するツールを2〜3本に絞って無料枠で試す、④ヘルパー2〜3名で1か月運用し、修正にかかった時間と使わなくなった理由を記録する、⑤定着したら対象の業務と人数を広げる、の順です。全員一斉に始めると、使えない人が出た時点で紙に戻ります。
定着の分かれ目は、ヘルパーの平均年齢が50代半ばという現場に合わせた設計です。アプリの画面は1つに絞り、話す内容の型(「食事・排泄・バイタル・特記」の順)を紙1枚で配り、最初の2週間は管理者が下書きの修正を引き受けます。修正の頻度が下がってきたら本人に戻す、という段階を踏むと、年齢に関係なく使い続ける事業所が多い印象です。
当社(UniGain)はAI導入支援を月10万円〜で提供し、業務の棚卸しからツールの選定、ルールづくり、定着まで伴走しています。記録から請求まで独自の流れがある事業所には、既製ソフトで埋まらない部分の業務アプリ・システム開発(80万円〜)で対応し、業務システム構築で工数60%削減・対応速度2.5倍につながった例は事例ページで紹介しています。名古屋・名駅に事務所があるため、愛知・名古屋の事業所は対面で現場を見ながら相談できます。
- 対象業務を1つ選び、1週間分の所要時間を先に測る
- 使っている介護ソフトに対応するツールを無料枠で試す
- ヘルパー2〜3名・1か月の試行で、修正時間と離脱理由を記録する
- 話す内容の型を紙1枚にして配り、最初は管理者が修正を引き受ける
よくある質問
Q訪問介護の記録AIはスマホだけで使えますか?
使えます。音声入力型の記録ツールの多くはスマホアプリかブラウザで動き、訪問先や車内で話した内容を下書きにします。ただし転記先の介護ソフトに対応していないと、下書きをパソコンで写す作業が残ります。カイポケならカイポケ連携のツール、ワイズマンなら自社オプション、というように介護ソフトから逆引きで選び、無料枠で1か月試してから契約してください。
Q訪問介護でも生産性向上推進体制加算は取れますか?
取れません。2024年度改定で新設された生産性向上推進体制加算は、厚生労働省の資料で施設系サービスが対象とされており、訪問介護は算定対象外です。訪問介護のAI・ICT導入では、愛知県の介護テクノロジー導入支援事業費補助金(補助率4/5・上限1,000万円、令和8年度は受付終了)や国のデジタル化・AI導入補助金と、削減できる事務時間で投資回収を考えます。
Q訪問介護のAI導入の費用はいくらから始められますか?
記録の音声入力なら無料枠か月数千円から始められます。カイポケ連携の神マナは利用者3名まで無料、ミルモレコーダーは月額5,000円、AmiVoice CLxは月1,650円の定額があります。スケジュール最適化や請求連携まで含む訪問介護向け管理ソフトは月額制が中心で、既製ソフトで埋まらない独自の流れを業務アプリとして作る場合は80万円〜が目安です。補助金は後払いが原則のため、自己資金で先に支払う前提で計画してください。
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